統合失調症のご家族の「幻聴」や「妄想」:穏やかに寄り添うための接し方
ご家族の「幻聴」や「妄想」にどう接すればよいのか、お悩みではありませんか?
統合失調症のご家族を持つ方にとって、ご本人の言動がいつもと違い、戸惑いや不安を感じることは少なくありません。特に、ご家族が「誰もいないのに声が聞こえる」と話したり、「誰かに狙われている」といった考えを強く訴えたりする場面に直面すると、「どうすれば良いのだろう」と途方に暮れてしまう方もいらっしゃるでしょう。
そのような「幻聴」や「妄想」は、ご家族の心が乱れているわけではなく、統合失調症という病気の影響で現れる症状の一つです。ご本人にとっては、実際に起きていることとして感じられています。
この状況で、ご家族としてどのように接すれば、ご本人の負担を少しでも和らげ、安心感を与えられるのか。そのための大切な考え方と具体的なヒントをお伝えします。
「幻聴」や「妄想」は病気の影響であることを理解する
ご家族が幻聴や妄想を口にした時、まず心に留めていただきたいのは、それが病気の症状であり、ご本人の意思でコントロールできるものではないということです。ご本人は、実際にその体験をしていると感じており、ご自身ではそれが現実ではないと区別することが難しい状態です。
この理解があるかないかで、ご家族の接し方も大きく変わってきます。病気によって見える世界が異なることを知っていれば、必要以上に感情的になったり、ご本人を責めたりすることが減るでしょう。
穏やかに寄り添うための大切な接し方
ご家族が幻聴や妄想を話された時、具体的な行動として心がけていただきたい点がいくつかあります。
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頭ごなしに否定せず、まずは耳を傾ける ご家族が「こんな声が聞こえる」「こんなことをされた」と話された時、「そんなことはない」「気のせいだ」と頭ごなしに否定したり、間違いを指摘したりすることは避けてください。ご本人にとっては現実として体験していることですから、否定されることで傷つき、孤立感を深めてしまう可能性があります。まずは「そうなんですね」「辛いですね」と、ご本人の話を穏やかに聞く姿勢を示すことが大切です。
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無理に現実を説得しようとしない 幻聴や妄想を「現実ではない」と無理に説得しようとしても、多くの場合、ご本人の状態を悪化させてしまうことがあります。論理的に説明しようとしても、ご本人の脳の中では現実として処理されているため、混乱させたり、ご家族への不信感を抱かせたりする原因にもなりかねません。ご本人の訴えを否定せずに受け止めつつ、現実と違う点について、無理に合わせる必要はありません。
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ご本人の不安な気持ちに寄り添う 幻聴や妄想は、ご本人にとって非常に強い恐怖や不安を伴うことがあります。ご本人が話す内容自体に集中するのではなく、「怖い思いをしているのですね」「不安な気持ちなのですね」と、ご本人の感情に寄り添う声かけを心がけてください。共感を示すことで、ご本人は安心し、落ち着きを取り戻しやすくなります。
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安全を第一に考える 幻聴や妄想の内容によっては、ご本人自身や周りの方々の安全が脅かされる可能性もあります。例えば、「誰かに危害を加えられる」という妄想から、外に飛び出そうとしたり、落ち着きなく動き回ったりすることもあります。そのような兆候が見られた場合は、まずご本人の安全を確保することを最優先に考え、穏やかに、しかし毅然とした態度で対応してください。必要であれば、かかりつけの医療機関や地域支援センターにすぐに連絡し、指示を仰ぎましょう。
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ご家族自身の心と体を大切にする ご家族の幻聴や妄想に寄り添うことは、精神的に大きな負担を伴うことがあります。ご自身の心と体を無理させてしまうと、かえって共倒れになってしまう危険性もあります。完璧に対応しようとせず、ご自身の休息も大切にしてください。一人で抱え込まず、支援機関や信頼できる人に相談する時間を持つことも重要です。
困った時は、迷わず専門家に相談しましょう
ご家族の幻聴や妄想への対応は、非常にデリケートであり、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。もし、どのように接すれば良いか迷ったり、ご本人の言動がエスカレートして対応が難しくなったりした場合は、一人で悩まずに、必ず専門家にご相談ください。
- 主治医:ご本人の状態を一番よく知る専門家です。
- 精神保健福祉士:ご本人やご家族の相談に応じ、様々な支援の情報を提供してくれます。
- 地域活動支援センターや精神保健福祉センター:地域の身近な相談窓口として、具体的なアドバイスや支援を受けることができます。
これらの専門機関は、ご家族の不安に寄り添い、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。
あなたは一人ではありません
統合失調症のご家族が幻聴や妄想を体験される状況は、ご家族にとっても大変辛いものです。しかし、あなたは決して一人ではありません。多くのご家族が同じような悩みを抱えながら、ご本人に寄り添い、日々を過ごしています。
病気の症状は変化することもありますが、適切な支援と理解があれば、ご家族が穏やかに過ごせる時間は必ず増えていきます。できることから少しずつ、専門家の力を借りながら、ご自身とご家族のペースで歩んでいきましょう。