統合失調症のご家族が「家から出たがらない」時:できることから始める穏やかな支援のヒント
統合失調症のご家族が、なかなか家から出ようとしない姿を見て、ご心配になったり、どうすればよいのか悩んだりすることは珍しくありません。かつては活発だった方が、急に家にこもりがちになると、ご家族としては「このままで大丈夫だろうか」「何とか外に連れ出してあげたい」というお気持ちになることでしょう。
しかし、焦って無理に外出を促しても、かえってご家族を追い詰めてしまうこともあります。大切なのは、ご家族の心に寄り添い、小さな一歩から始める穏やかな支援を見つけることです。
このページでは、統合失調症のご家族が家から出たがらない背景を理解し、無理なく外出を促すための具体的なヒントと、ご家族自身の心のケアについてお伝えします。
ご家族が家から出たがらない理由を理解する
統合失調症の症状は人それぞれですが、病気の影響で外に出ることに対して強い抵抗を感じたり、外出への意欲が湧きにくくなったりすることがあります。
いくつかの理由が考えられます。
- 意欲の低下(陰性症状): 病気の影響で、これまで楽しんでいたことや、身だしなみを整えることに対して、関心や意欲が低下してしまうことがあります。これは「怠けている」わけではなく、病気の症状の一つとして現れるものです。
- 人との交流への不安や恐怖(陽性症状、認知機能の低下): 幻聴や妄想といった症状がある場合、外で人に会うことや、人の目が気になることに強い不安を感じることがあります。また、人の話についていくのが難しい、周りの状況を理解しにくいといった症状も、外出をためらう理由になることがあります。
- 疲れやすさや刺激への過敏さ: 統合失調症の方は、疲れやすかったり、音や光といった外部からの刺激に敏感だったりすることがあります。そのため、外に出るだけで精神的に大きな負担を感じ、家にいる方が安心できると感じる場合があります。
- 生活リズムの乱れ: 昼夜逆転の生活になったり、起きている時間が短くなったりすることで、自然と外出する機会が減ってしまうこともあります。
これらの理由を知ることは、ご家族への理解を深める第一歩です。ご家族が「なぜ外に出たがらないのだろう」と感じた時、病気の影響かもしれないと考えてみてください。
できることから始める穏やかな声かけと支援のヒント
ご家族を無理に外に連れ出すのではなく、ご家族自身の気持ちに寄り添いながら、小さな「できること」から始めてみましょう。
1. まずは家の中でできることを提案する
いきなり外出を促すのではなく、まずは家の中でできる活動から始めてみませんか。
- 簡単な家事を一緒にする: 洗濯物をたたむ、食器を拭く、部屋の片付けをするなど、短い時間でできることを「一緒に手伝ってほしい」とお願いしてみるのはいかがでしょうか。達成感を感じる良い機会にもなります。
- 趣味や興味のあることを共有する: テレビや雑誌、インターネットなどで、ご家族が以前から興味を持っていたものや、好きだったことに関する情報を見つけて、一緒に眺めてみるのはどうでしょうか。無理に会話を促さず、ただ隣に座って過ごすだけでも、ご家族にとっては安心感につながります。
- 一緒に過ごす時間を作る: リビングで一緒にテレビを見る、庭の植物を眺める、穏やかな音楽を聴くなど、言葉を交わさなくても、ただ同じ空間で穏やかに過ごす時間を作ることも大切です。
2. 外出のきっかけを「穏やかに」作る
家の中での活動に少し慣れてきたら、次は外出につながるような小さな一歩を考えてみましょう。
- 「少しだけ」を提案する: 「気分転換に、家の周りを少しだけ散歩しませんか」「お買い物に付き合ってもらえませんか」といったように、「少しだけ」「一緒に」という言葉を添え、相手に負担を感じさせないように提案してみてください。
- 目的を明確にする: 「〇〇を買いに行きたい」「△△の用事を済ませたい」など、具体的な目的を伝えると、ご家族も外出のイメージがしやすくなります。
- 慣れた場所から始める: まずは自宅の庭やベランダ、近所の公園、人が少ない時間帯のスーパーなど、ご家族が安心できると感じる場所から始めてみてください。
- 選択肢を提示する: 「AとB、どちらがいいですか」と選択肢を与えることで、ご家族が自分で決めるという主体性を尊重できます。「今日はどこに行きたい?」と漠然と聞くよりも、答えやすくなります。
- 体調を最優先にする: ご家族のその日の体調や気分が優れない場合は、無理強いせず、潔く中止することも大切です。また次の機会があると考えて、焦らないことが肝心です。
3. 声かけの工夫と接し方のポイント
ご家族に話しかけるときには、いくつかのポイントを意識してみましょう。
- 「頑張って」「元気を出して」は控える: ご家族は十分に頑張っています。これらの言葉は、かえってプレッシャーに感じさせてしまうことがあります。
- 一方的に話さず、相手の反応を待つ: ご家族がすぐに返事をしなくても、焦らずに待ちましょう。返事がないことが、必ずしも「拒否」とは限りません。
- 穏やかな口調と表情で接する: ご家族は周囲の雰囲気に敏感です。ご家族が安心できるよう、穏やかな声で、笑顔を心がけて話しかけてみてください。
- 変化を褒める、認める: たとえ小さなことでも、ご家族が行動を起こした時には「ありがとう」「助かったよ」といった感謝や、「〇〇ができてすごいね」といった具体的な言葉で褒め、認めることが大切です。
ご家族自身の心のケアと相談先
ご家族が家から出たがらない状況は、ご家族を支える方にとって大きなストレスとなり得ます。ご自身の心と体の健康を保つことも、大切な支援の一部です。
1. 一人で抱え込まない
「自分が何とかしなければ」と一人で抱え込みがちですが、それはご家族自身の心身を疲れさせてしまいます。頼れる場所があることを知っておきましょう。
- 地域生活支援センター: 精神疾患を持つ方やご家族が、地域で安心して生活できるよう、さまざまな相談を受け付けています。専門のスタッフが、ご家族の状況に合わせたアドバイスや情報提供をしてくれます。
- 精神保健福祉センター: 心の健康に関する専門的な相談機関です。ご家族の病気のこと、接し方、社会資源の利用など、幅広い相談が可能です。
- 医療機関の相談窓口: 主治医や看護師、精神保健福祉士に、ご家族の状況を相談してみましょう。専門的な視点から、具体的なアドバイスが得られることがあります。
- 家族会: 同じように統合失調症のご家族を持つ方々が集まり、情報交換や悩みごとの共有を行う場です。体験談を聞くことで、気持ちが楽になったり、新たなヒントが見つかったりすることもあります。
2. ご自身の時間も大切にする
ご家族のことに意識が向きがちですが、ご自身がリラックスできる時間や、気分転換になる活動も意識的に取り入れるようにしましょう。趣味の時間を持つ、友人との交流を楽しむ、定期的に体を動かすなど、ご自身の心と体を大切にする時間が、長くご家族を支え続ける力になります。
まとめ
統合失調症のご家族が家から出たがらない時、ご家族を支える方のお気持ちはとても複雑なことでしょう。しかし、焦らず、ご家族のペースを尊重し、小さな一歩から始める穏やかな支援は、きっとご家族の心に届きます。
「大丈夫、焦らなくていいんだよ」というメッセージを、態度や言葉で伝え続けることが何よりも大切です。そして、ご自身も一人で抱え込まず、利用できる支援や相談先を積極的に活用し、ご自身の心と体のケアも忘れずに行ってください。
このページが、ご家族が前に進むための一助となり、ご家族の不安が少しでも和らぐことを願っております。